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書評コーナー
●橋本 忠雄 集
小さな命からの伝言  アグネス・チャン 著    新日本出版社  1300円

 アグネスの歌う可愛い姿は、私でも覚えている。その彼女でも子供の時は、姉達と自分を比べて、劣等感に悩まされていたらしい。自分が嫌いで自分は不幸だと思っていたと言う。あの可愛いアグネスが!である。
 しかし、それを変えたのは中学生の時から始めたボランティア活動だったという。
そこで、多くの恵まれない子供達に出会った彼女は、自分の悩みはとてもちっぽけなものだったのだと気付く。
 ―― 人間というのは、自分のことばかり考えていると、苦しくなってくる。私のようなものでも、本気になれば、誰かを少しは幸せにしてあげることができる。そう思うと、自分のちっぽけな殻から飛び出ることが出来ました。自分が変わればまわりも変わる。気付いてみると、まわりに人が増えていました。友達が増えたし、自分も変わることが出来たのです。
 自分のことは忘れて、まずまわりのことから取り組む。できることからやっていけば、必ずエネルギーの出口が見つかって楽になる。これが中学時代に、子供達がおしえてくれた楽になれる方法、エネルギーの出口がみつかる魔法だと、今でも私は信じています。

 素晴らしい考え方だと思う。患者さんも含めた世の中の悩める人々に、この考えと生き方を伝えてあげたい!しかし、こう思えたのはやはりアグネスの賢さと優しさだったのだと思います。
 その彼女が世界の貧しい国を訪問し始めたのは、30歳の時。まずエチオピアへの訪問であった。そこで、彼女は人生が変わる程の衝撃を受けたのであった。
彼女の訪問国を列挙すると―――

1. エチオピア    1985年訪問  難民キャンプ
2. タイ         1998年     買春宿
3. スーダン      1998年      40年続く戦争
4. 東西ティモール  2000年     難民キャンプ
5. フィリピン               ストリートチルドレン
6. カンボジア     2002年    人身売買
7. イラク        2003年    イラクの戦禍
8. モルドバ       2004年    人身売買
 
貧困と、差別と、売買春、殺戮、戦争、内戦、人身売買などのすさまじい実態を知らされて驚くばかりである。われわれもこういう世界の状況を頭に入れて、考えながら生きていく必要があると思った。
各国の状況は、この本を読んで頂くとして、印象に残った幾つかを列挙したい。

1. エチオピアの難民キャンプにて:子供たちのところにはハエがいっぱいとまってい ます。なんでと聞いたら、「今は干ばつだよ、ハエだって潤いを求めるのに必死なんだ。植物も動物も死んだんだから、潤いの元は今は人間だよ」

2. 「ワーッと抱きしめて、あっ、この子と死んでもかまわない」と思った瞬間、「ああ、私、生きてるんだな、私、生きていたんだな」と実感しました。もう何も恐くない。
なんだ救われたのは私のほうじゃないかと気づきました。

3. 私は世界中どこでも、女の願いは一緒だと思います。夫が元気で働けて、子どもたちがお腹いっぱい食べられて、学校へ行けて、病気になったら病院へ行けること。

4. スーダンの少年兵:「あなたの宝物は何?」「ボクは軍隊で地獄を見てきた。だから今のボクの宝物は、生きていることだよ」。同じ年頃の子供を持つ母親として、その答えを聞いて胸がつまりました。

5. フィリピンのストリートチルドレン:日本でもようやく「児童買春・児童ポルノ禁止法」が施行されました。私たちは絶対に加害者にならないことをまず心に誓いたい。そして、アジア全体で100万人ともいわれる買春の犠牲になっている子供たちの人権を守るために、あきらめずに援助を続けていきたいと思います。

6. イラクにて:「日本の人たちは、みんなイラクの子供たちのことを心配しているよ」と言うと、「帰ったら、私たちも日本の子供のことが大好きだって伝えてね」と微笑んだ9歳の豆売りの少女ジハンちゃん。

7. モルドバ:世界の人身売買は今、“第四の波”を迎えています。アジア、中南米、アフリカにつづき、欧州にまで問題は広がっているのです。

8. 「麻薬は一度しか売れないが、女性や子供は何回でも売れると言われています。売春や物乞い、物売り、養子、そして臓器提供。多くの子どもたちがEU諸国、バルカン諸国、ロシア、トルコからアラブ諸国にまで売られています」世界では今、120万人の子どもたちが、人身売買の犠牲になっています。実態が見えにくいだけに、人身売買との戦いは、目に見える戦争よりも恐ろしい面があります。

9. 「最近では、クローン技術の研究のために、ウクライナに少女達の卵子を採取する病院ができました。日本へモルドバの女性を送り込む組織も存在します」

 しかし、イラクのジハンちゃん(9歳の豆売りの少女)の言葉――「私たちも日本の子供のことが大好きだって伝えてね」
この優しさはどこから来るのだろう?まだ見たこともない日本の子供達へのイラクの少女の優しさと愛情は、どこから生まれてくるのだろう? 宗教から?教育から?人種的特徴から? しかし、このことは、実はとっても大切なことに思えます。
日本人の多くが、こんな心持と想像力を忘れかけているのではないでしょうか?
05年1月16日
書評:橋本 忠雄



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