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書評コーナー
●橋本 忠雄 集
WTO(世界貿易機関)徹底批判!  
作品社 スーザン・ジョージ著  杉村昌昭訳  1300円
 WTOとは何であろうか? それは1995年、GATT(世界貿易一般協定)に代わって世界の自由貿易を推進するために設立されたものである。それが、世界中の人々の幸せに貢献するのなら好ましいことなのだが、現実はその反対の面が多い。それを批判しているのが、この本である。著者はパリに住み、「トランスナショナル研究所」と「グローバリゼーション観測所」で仕事をし、「ATTAC」(市民を支援するために金融取引への課税を求めるアソシエーション)で精力的に働いているということである。

 この本の主張を一言で云えば、「金銭だけが至上の価値であることを押し付けてくるグローバリゼーションにたいして、『もう一つの世界は可能だ』という標語を掲げながら立ち向かっていこうではありませんか」と言うことにある。

今、世界の主人公は誰であろうか? アメリカ? 日本? EU? 中国?
否、どれでもないのです。
じつは、世界の主人公は「多国籍企業」または「超国家的企業」なのです。
 いまや、全世界の貿易の1/3は、系列会社同士の貿易(たとえば、IBMがIBMと取引する)、また1/3は超国家企業同士の貿易(たとえば、IBMとルノーが取引する)そして、残りの1/3がやっと、本来の意味での国家間の貿易に過ぎないのです。
 すなわち、世界は昔のように、国家によって支配されているのではなく、超国家企業に都
合の良いように運営されているのです。その意味では、ブッシュも小泉もブレアも、国を動かす政治家ではなく、超国家企業に使える僕でしかないのかもしれません。
    
 そう見てくると、今の日本の状況も良く分かると言うものです。なぜ、今の内閣が、構造改革といって、何もかも民間に任せようとするのか。銀行でさえつぶし、それを外国のファンドに超安い金で売り払う。医療も聖域ではなく、株式会社が経営できるようにする。また、リストラをする経営者がなにか偉い者であるかのように論評する。消費税も16%くらいに上げる。年金の支給額は下げる。また経団連は政党の通信簿をつけて、自分達の意に適った政党には多くの献金をすると言う。実に政治を金で買うという異常な事態にまでなっています。しかし、企業献金は政治にとって好ましくないという理由で、止めることにしたのではなかったのですか。その舌の根の乾かないうちでの企業献金の復活です。まさしく、企業の遣りたい放題と言うしかありませんが、世界が超国家企業によって支配されていると考えれば、合点のいく話です。
今の日本の事態は、あきれるばかりですが、それを、激しく糾弾する論調もマスコミでは聞かれません。そこにあるのは、自己責任を強調した弱肉強食の世界とそれを糾弾することさえ忘れてしまったマスコミ及び日本人の主体性のない姿です。

これらの事実が、いろいろな事例を通して、具体的に書かれているのが本書です。
また、WTOに対抗して(超国家企業に抗して)我々の生きてゆく道が書かれています。例えば、「競争や商売を、人間存在の中心的価値とするなどというのは、まったく不条理なことである」「われわれは『すべてのものを貿易・商売の対象にする』という原則を拒否し、発言権を要求するとともに、WTOのすべての規則を徹底的に検討しなおし、この組織が環境や共和国の既得権や民主主義といったものを脅かすことがないようにしなければならない」それは、「これまでの歴史で誰もがしなかったこと、国際的空間において民主主義を確立することである。アタックはこの戦いの先頭に立つつもりである」

しかし、これは簡単な事業ではないようです。この本の解説を書かれている佐久間智子さんも以下のように書かれています。(じつは、この解説を読んだほうが ―― こういっては申し訳ないですが、こなれていない訳文を読むよりもよっぽど分かりやすいです)。
「私たちに今必要なのは、特定のセクターや個人に対する批判ではなく、今の政治・経済・社会を取り巻く複雑な現実を理解するための鳥瞰図であり、それを構成する数多くの真実に根ざした情報が広く共有されるようになって初めて、そのような複雑化した社会を読み解く力が人々の中で育まれていくのである」
「もちろん、人々の情報リテラシー(読み書きの能力)、ひいては政策リテラシーを上げていくことは気長な作業である。しかし、エリートたちの拙速な解決策が失敗を繰り返している今、より多くのさまざまな知恵を寄せ集め、常識破りの、そして多種多様でボトムアップの、実践と現場を伴う解決策を積み上げていく方法しか、巨大なリスクを抱えた現代を乗り越える方法はないと確信している。」

現在の世界状況(戦争・経済・貧困・福祉・医療・企業など)を理解するために、この本に書かれていることを知るのは、大変重要である。
我々一人一人が、我々の将来の主人公となれるような社会の実現を目指して、奮闘したいと思う。        5月6日
書評:橋本 忠雄



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