橋本クリニック

クリニック院長 橋本忠雄ブログ

できそこないの男たち

橋本クリニック (2008年11月18日 22:24)
福岡伸一著  光文社新書  820円dekisokonai.jpg

今年の9月28日、大阪府保険医協会の総会で講演されたときに、福岡先生が新刊を出したと宣伝さたのが、この本であった。
豊富な科学的知識に裏づけされながら、科学的な発見をミステリー調のスリルに富んだ物語に仕上げる文学的才能を併せ持った稀有な人である。

さてこの物語。文字通り、男が偉いのではなく、生物の基本仕様は女性であって、男はそこから紡ぎだされる出来損ないに過ぎない----と言う。
例えば、アリマキという生物は、メスがメスを生み出しうまれたばかりのメスの体内にはもう既に娘が入っている。オスは必要ないのである。
 そこを福岡先生の描写力で書けば、以下の如くになる。

---- メスのアリマキは誰の助けも借りずに子どもを産む。子どもはすべてメスであり、やがて成長し、また誰の助けも借りずに娘を産む。こうしてアリマキは メスだけで世代を紡ぐ。しかも彼女たちは卵でではなく、子どもを子どもとして産む。哺乳類と同じように子どもは母の胎内で大きくなる。ただし哺乳類と違っ て交尾と受精を必要としない。

母が持つ卵細胞から子どもは自発的・自動的に作られる。母の胎内から出た娘は、その時点でもうすでにティアドロップの形の身 体に細い手脚を持つ、小さいながらも立派なアリマキである。しかも彼女たちの胎内にはすでに子どもがいる。アリマキたちは、ロシアのマトリョーシカのよう な「入れ子」になっているのだ。

 イブはアダムから作られたと、聖書は述べているが、実際は逆で、メスからオスが作られたのだと言う。
 男と女の身体の違い。小学校高学年だったか、または中学生になったばかりの頃だったかもしれない。「女の子の陰部には、穴が3つある」と聞かされた。
その時はとても驚いた。何故なら自分の身体には、2つの穴しかなかったからだ。
「神様が、そんな不平等なことをされるはずがない」と、思ったものだが、も
ちろん私がクリスチャンであった訳ではなく、ただ、適当な答えが見つからなかったので、狼狽して神様を持ち出しただけなのだろう。
しかし、では子どもは何処から産まれるのか? そんな素朴な疑問も持っていなかったのかもしれない・・・・。

 しかし、発生学的に言っても、女性の身体がカスタマイズされたのが男であるというのは、確かな事実なのだろうと思われる。
 女性の大陰唇を縫い合わせたのが陰嚢であり、小陰唇を縫い合わせて作ったのがペニス。亀頭はクリトリスである。だから、陰嚢の裏側には、きっちりと縫い目が続いている(それを、蟻の門渡りと言う)。
確かに、逆(男の身体の突起物を切り分けて女の身体を作るという)のは、想像しにくいですね。 (詳細は、P158からの「刺客の仕事」をお読み下さい。とっても面白いです!)

 しかし、女の出来損ないが男だとしたら、女の遺伝子をほかの娘たちに運ぶのだけが、本来の男の仕事だとしたら、何故その男たちが今の世の中の権力を握っているのか? 何故女性たちを支配しているように見えるのか? 
当然の疑問が浮かびますが、その答えは、261ページからの「余剰」という文章を読んでみてください。福岡先生からの答えが載っています。

最後に、福岡先生からの問題提起を記しておきます。
---- それにしてもなぜ男はここまで女性に尽くしてしまうのか。この物語
の最後に、そのことについてすこしだけ考察を進めてみたい。
端的にいえば、男が尽くすのは"あの"感覚から逃れられないからである。
それは男を支配する究極の麻薬だ。それがどうしてもほしくなる。してもしてもまた、した後からその感覚がほしくなる。

福岡先生は、その性的快感を加速度を感じる感覚と似ているという。
そして、彼の締めくくりの文章は、以下の如くになる。
---- 自然は、加速を感じる知覚、加速覚を生物に与えた。進化とは、言葉の本当の意味において、生存の連鎖ということである。生殖行為と快感が結びついた のは進化の必然である。そして、きわめてありていにいえば、できそこないの生き物である男たちの唯一の生の報償として、射精感が加速覚と結合することが選 ばれたのである。

射精の快感は、ジェットコースターに乗った時の「加速感」に似ている? 納得される読者も、納得しかねる読者もおられるのではないでしょうか? 
最後に、私からの唯一の質問を、福岡先生に呈してみたいと思います。
---- では、女性の性的快感というのは、何故与えられたのでしょうか?
子どもを産むという行為に対する代償として? はたまた、その感覚はやっぱり加速感に似ているものなのでしょうか?