橋本クリニック

クリニック院長 橋本忠雄ブログ

14歳からの社会学

橋本クリニック (2008年12月19日 02:58)
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14歳からの社会学  宮台 真司 著  世界文化社  1365円
 
 私が小学生の頃に持っていた疑問は、三つあった。
宇宙の果てのその向こうには、何があるのか?
人間は何故死ぬのか?
人間は何故いつも悩みがあるのか?
 小学生のときに持った疑問は、今でもそのまま続いているとも言えるわけで、小学生と言えども、哲学的疑問は持っていたものと思える。
 しかし、考えてみれば、そこには社会はどうなっているか? という社会学的な疑問は入っていなかった。これは私の個人的な問題なのか、または子どもたち一般が持っている傾向なのだろうか?
 そういう点から言えば、この本は、『社会とは何か?』を教えてくれる
なかなか現代的な内容を持った素晴らしい本と言える。
 内容はなかなか刺激的だ。
第1章は、<自分>と<他人> というタイトルであり、
「みんな仲よし」じゃ生きられない となっている。
――  ぼくたちが人を殺さないのは、殺せないからだ。殺せないのは殺せないように育っているからだ。
    ぼくたちは他者たちと交流して「承認」されることを通じて「尊厳」を獲得してきた。だから、「自分が自分であること」にとって、他者たちの存在が必要不可欠だ。そういうふうに育ちあがったぼくたちは、だから簡単には人を殺せない。
自分が自分であることにとって、他者たちの存在が無関連であるような人間が出てきたんだ。でも、他者たちとの交流と無関係なまま自己形成ができるような社会はおかしいよ。そんな社会は長続きできない。    
 
でも、「承認」はそんなに簡単に得られない。「これさえあれば尊厳OK」なんて魔法はないんだ。他者たちを前にした「試行錯誤」で少しずつ得た「承認」が、「尊厳」つまり「自分はOK」の感覚を与えてくれる。それが力になって、君はもっと広い世界に踏み出せる。
    競争を勝ち抜いて、「一流」大学や「一流」企業に入っても、会社を興して成功して金持ちになっても、自分の人生が「承認」から見放されているのであれば、いずれ君は自分がさびしく死んでいく人間であることに気づかされるだろう。それが果たして幸せな人生だろうか。
  この「承認」と「尊厳」という言葉を使った説明は、現代の無差別殺人
を考える際にも、重要な鍵となるだろう。
 私がこの本の中で、一番興味を持ったのは、
第5章 <本物>と<ニセ物> のところで述べられている学ぼうとするときの動機についてだ。動機には三つあって、
① 「競争動機」勝つ喜び
② 「理解動機」わかる喜び
③ 「感染動機」直感でスゴイと思う人がいて、その人のそばに行くと
「感染」してしまい、身振りや手振りやしゃべり方までまねしてしまう―― そうやって学んだことが一番身になるとぼくは思う。
 この「感染動機」について、自分の個人的な経験を話したい。そういう人物は、自分の周りを見回してみても、そうざらに居られるわけではない。
そして、一番に浮かんできたのは"細川汀先生"のことであった。先生を知ったのは、先生が関西医大の衛生学教室におられた頃で、もう30年以上前になる。私は、有機化合物(トルエン))の肝障害について相談に行ったのだが、先生は書き物を続けながら、こちらを一瞥もせずに私の説明を聞き、時々鋭い質問をされるのには、吃驚してしまった。書きながら、こちらの話もちゃんと聴いておられるのだ!
 その後、「汀会」という先生を囲む会に入れて貰ったのだが、考えてみれば私は先生の教室の一員でもなく、ただ一度職業病の相談に訪れただけの駆け出しの医師にすぎなかった。
 そんな私が、ある年の「汀会」を欠席したことがあった。その後、少しして先生に会ったところ、「来てくれなかったね」と、とても寂しそうな顔をされた。
その時、なんて器の大きな先生なんだろう!と、思った。先生のお弟子さんたち(大学教授などがたくさんおられる)の一番下座に位置するような私に向かって、そんな優しさと関心を示される先生にとても驚いたことであった。
 しかし、折につけて、私は先生に相談するようになっていた。
『わたしがカルテをわたす理由』を出版したときは、先生に解説文を書いてもらったし、今年も憲法9条の会で私が講演するときに、「天皇の戦争責任問題」について、話すべきなのか? また話すとしたらどのように話したらよいのか?と、先生に相談していた。
 先生なら、どんなふうに話されるだろう? それが、私の一番知りたいところであり、それが私の行動基準になっていたのだ。
 これが、宮台氏が言うところの「感染動機」なのだろう。
人生の途中で、「感染」する程の人物にはなかなか出会えるものではない。
先生の周りに多くの人々が集まるのは、皆が先生に感染しておられるからであろう。「汀先生には、いつまでも元気でいて頂きたい」。これが、汀会の皆さんのお気持ちであろうと思われる。
 今回は、宮台氏に触発されたとはいえ、とても個人的な話になってしまった。ご容赦願いたい。           08年12月7日