橋本クリニック

クリニック院長 橋本忠雄ブログ

戦争への想像力

橋本忠雄 (2009年5月 6日 08:08)

小森陽一監修  新日本出版社  1600円sennsouheno.jpg

9人の若者が、いろいろな問題に取り組みながら、自分と戦争との関係を考え、
行動している実践を纏めた本である。
どんな実践かというと、
1. 従軍慰安婦 2.南京事件 3.強制連行・強制労働 4.靖国神社
5.東京大空襲 6.沖縄戦 7.原爆 8.朝鮮戦争 9.イラク戦争

以上の問題に、何故関わるようになったのか? また、それが何故自分な
のか?

小森氏によれば、彼らが「たまたま」それらの問題に出くわし、自分の事
として取り組み始めたのだという。
『たまたま』この言葉の意味するところは・・・小森氏は言う。

それを漢字で書いてみると、『偶』・『適』・『会』・『遇』などであるという。
偶:偶然に。 また、この言葉には、「配偶者」という熟語があるように、
  つれあう、対になる、そろうという意味、なかまという含意もある。
  ―― 彼らは、偶然戦争体験者やその証言、あるいは遺骨や遺品に直
面したのだけれど、その未知との遭遇をしっかりと自分で掴み
取り、対になって連れ合ってきたのであり、その中で仲間を増
やしてきたのだ。

適:適然  ちょうどその時、様々な思いを抱いていた心に、とてもふさ
わしく当てはまったという意味になる。運よくそこに出会えた
ということ。だから、「たまたま」には、『会』・『遇』の字も当
てられるのである。
   ―― その時に出会った他者と、人と人としての関係を結んで、もて
なし続ける実践をしてきたのが、彼女や彼らなのだ。持て成す
とは、待遇することであり、歓待することであり、面倒をみて
世話をすることであり、自分の身を処することである。

彼らの証言は、それぞれに重い。本心から実践している者にしか語れない言葉
を持っている。

例えば、
1. 証言してもらうことは、勿論傷口を再び開くことではあるけれど、語ら
ないことで傷口が癒されているわけでもなく、逆に語れないことは自己
否定をずっとし続けている状態なんだと、思ったときにおばあさんが話
してくれたことに対して、聴く側の私たちの共感が近い位置で伝えられ
るような形を取るのが、単に傷口を開かせるだけじゃなくて、開いた傷
口をもう一度癒すような力になるんじゃないかと感じています。
2. 好きな人と結婚するとか、暑い日には半袖を着るとか、僕らが当たり前
に思っていることが、原爆によって奪われたんだな、もし自分が同じ状
況になったらどんな気持ちになるだろう、って想像する。そうやって自
分の日常や人生と重なる部分が見えたとき、遠くに感じたその人の存在
がぐっと近くなるし、原爆や戦争も他人事ではなくなる。
3. ひめゆりの女学生も、「あ、僕らと同じ普通の学生だったんだ」、とそう
気づいたとき、怖くなった。当時この方たちも普通の学生だった。そし
て、彼女らの行く先には戦争があった。
4. 「証拠がない」ってよく言われるし、証言を否定する根拠にもされます。
でも、おばあさんたちは凄くリアルな証言をするんです。日本軍が占領
した地域で、「慰安所」という形じゃなくて、「自分の家の近くの小屋に
入れられて暴力を受けた。その入れられた部屋には窓が一つだけあって、
その窓から自分の家の畑が見えた」。凄く描写がリアルなんです。
 (これは、本多勝一さんの、「聴き取り調査」の方法そのものである。細部を
記憶しているということは、その証言が、事実であることの有力な証拠である)

色々な力を持った証言が出てくるが、それらは本書でお読み下さい。

しかし、現在の時点というのは、平和な時代でもなんでもない。アメリカは、
アフガンやイラクに侵略し、自衛隊は憲法を破ってまで、イラクの地へ
派遣された。今また、ソマリア沖の海賊対策という口実で、海軍が派遣さ
れた。沖縄の軍事基地は縮小されるどころか、辺野古沖に爆撃機のための
巨大な滑走路が作られようとしている。また、毎年3万人を越す自殺者が
我々の現在の未曾有の格差社会・切捨て社会で、出ている。我々の現在が
平和だとは、とても思えない。

しかし、この時代、こんな若者たちがいることに、希望が湧いてくるでは
ないか。私たちの生きている時代には、平和な福祉国家が誕生する可能性
は低いが、やっぱりこんな若者たちに希望を、託そうではないか。
 しかし、この若者たちが、生きている高齢の証言者の声を聞ける最後の
世代なのかもしれない。そうすれば、これらの証言者の経験や体験を、
どのようにして、次の世代に継承していくのかが、大きな問題になってくる。
果たして、人間はそのような経験を、いつまでも継承できることが可能な
のであろうか。
                                                      09年5月6日