野中広務・辛淑玉 著 角川書店 724円
07年8月15日、天満のドーン・センターで、『第2回アジア・太平洋地域の
戦争犠牲者に思いを馳せ、心に刻む集会』が行われたが、その集会に野中さん
が来られていて、講演されたのには少なからず驚いた。何故なら、私の中では
彼は自民党の大物で、従って右翼的な人間だと思っていたから。彼は、1999年、
「国旗国歌法案」を自民党が通したときの官房長官であり、この法案を強力に
進めた人物だからだ。
しかし、その集会で発言された夏淑琴(南京大虐殺の犠牲者)の言葉を、涙を
流しながら聞いておられたのも、野中氏だった。
それは、私には、とても奇異な感じを抱かせるものであった。
しかし、この本の中で、彼が部落出身の政治家であり、自分の出自を知って
くれている地元から、差別をなくすために政治家になろうと決心されたのを知
って、納得がいった。
それゆえ彼は、部落差別、ハンセン病、従軍慰安婦、男女共同参画、アメラ
ジアン、アジア問題、戦後未処理問題などに、一生をかけておられる。
彼の回想の中で、蜷川京都府政に関する部分は面白かった。
あの蜷川氏でさえ、戦時中の京都大学経済学部教授の時に、学徒出陣に際して、
京大新聞に以下のように書かれたとのことであった。
「鬼畜米英を倒して、神国日本の御盾となれ」
「ペンを執るより銃を執れ」
その発言を追及した野中氏に対して、蜷川氏はこう答えたという。
―― 私の日々の活動がその反省であります
しかし、国旗国歌法案を通した野中氏の発言は、いただけない。
彼はこう言う。
辛:でも国旗国歌法案が通った現在も、教育現場はまだ揉めてますよね。
野中:あれは東京だけだ。学校現場が、教育現場を含めて、紛争がなくなった。
争うにも争うタネがなくなった。
この認識は間違っているだろう。
この本では、対談の途中で、辛さんが適切な解説を付けてくれているので、
部落問題や在日の問題が、分かりやすくなっている。
また、野中氏の人物像を知るには、部落解放同盟の書記長で社会党の議員
でもあった小森龍邦さん(勿論、国旗国歌法案に反対であり、この法案は
小森つぶしといわれたほど、権力側の圧力は執拗で想像を絶するもので
あったといわれている)が、インタビューの後で、辛さんにこう言われた
という。
――野中のことは悪く書かんでくれ。たとえ、あれが差別だこれが差別だと口
にしなくても野中の中には、腹の中には、『差別』の歴史がしっかり詰ま
っていて、野中はちゃんと分かっている
それに対する辛さんの感想:
おそらく、政治家「野中広務」は生涯を通してこの声なき声に応えようと
したのだろう。アフリカ系アメリカ人の血を引くバラク・オバマが
アメリカ大統領になったことで、多くの人が救われた気持ちになり
希望を持ったように、「野中広務」も被差別者のアイドルであり、星だった
のだ。
しかし、自民党の中に、野中氏のような真っ当な人材がいなくなってしまった
ことは、日本政治にとって、とても残念なことに思われます。
09年9月12日



























