書評一覧
厚生労働省崩壊
木村盛世著 講談社 1500円
著者の父は、開業医でありながら、WHOの副議長を務め、BCGワクチンの
キャンペーンをしていた人。貧しい人からは、診療費を受け取らず、外国の文
献にはたえず眼を通し、最良の治療をするように心がけていた人。
彼女が、そんな父と母から学んだことは、「人と人との信頼関係がいかに強固
なものであるか、そして、その関係は社会的な立場を超えて結びつくというこ
と」であったそうである。
そんな人だから、ここまで正義を通し、厚労省の役人たちを敵に回してでも
戦い続けることができているのだろう。その強さは、驚嘆に値する。
差別と日本人
野中広務・辛淑玉 著 角川書店 724円
07年8月15日、天満のドーン・センターで、『第2回アジア・太平洋地域の
戦争犠牲者に思いを馳せ、心に刻む集会』が行われたが、その集会に野中さん
が来られていて、講演されたのには少なからず驚いた。何故なら、私の中では
彼は自民党の大物で、従って右翼的な人間だと思っていたから。彼は、1999年、
「国旗国歌法案」を自民党が通したときの官房長官であり、この法案を強力に
進めた人物だからだ。
しのびよる破局
辺見 庸著 大月書店 1300円

著者の言葉を借りれば、この本は、
―― 破局下の思考と行動はせめてどうあるべきかといった立脚点から、思念
本来のオリエンテーションを取り戻すためのひとつの叩き台として著された。
「いまは、どんな時代か」「私たちはどうして生きているのか」という基本の設
問への初歩的な答えを準備するために。くりかえすが、パンデミックといい、
大恐慌といい、破局といいながら、私たちはその内実を、らちもない政治や経
済生活への影響以上には一般にさして危惧していない。とりわけ内面の深み、
想念の底流、無意識の荒みとのかかわりについては、まったくといってよいほ
ど内観してはいない。その意味で、いささか乱雑な構成になってしまった本書
の、せめてどこか一箇所でも、ことばが読者の内面の湖底におりていくことを
私はねがっている。
知られざる真実 ――勾留地にて

植草一秀 著 明月堂書店 1800円
インターネットのブログ『知られざる真実』で大活躍の植草さんが、書かれた本である。今や、植草さんのブログは、最も閲覧数の多いブログの一つである。毎日毎日、マスメディアに目を通し、その中から政治・経済の最も重要な問題点に標準をあわせ、的確なコメントを書かれている。
マスメディアが、マスゴミと揶揄されるようになった現在、ブログはとても貴重な情報源である。 今最も多く取り上げられているのは、郵政民営化に伴う巨大な経済犯罪の可能性のある『かんぽの宿』問題である。
なんせ、2400億円も投資した国民の財産を、たった109億円でオリックスに売り払うというのだから、大変な疑惑が横たわっていると考えられる。
資本主義崩壊の首謀者たち
広瀬隆 著 集英社新書 720円
世界金融崩壊の実態、本質を、見事に捉えた本である。
これほど多くの情報を的確に把握し、現在の世界を動かしている人脈・閨閥を
明らかにするには、相当な勉強が必要になる。
まずは、著者の博学に心から敬意を表したい。
話は、資本主義が崩壊した事実から始まる。1989年11月9日にベルリンの壁
は崩壊したが、トマス・ジェファーソンが起草した独立宣言によって建国して以来、230余年、2008年をもって、アメリカの資本主義は幕を閉じた。
思考停止社会
郷原信郎 著 講談社現代新書 740円
小沢代表の西松建設からの政治資金問題について、TVに頻繁に登場されるよ
うになったので、著者の顔を知っておられる方も多いだろう。
私も小沢代表や、カレー事件の林真須美さんに対する報道の仕方に、大きな違和感・疑念を持っている。(勿論、医療現場も偏見に満ちた、現場を知らない非難だけの報道にどれほど、苦しまされていることか)。
戦争への想像力
小森陽一監修 新日本出版社 1600円
9人の若者が、いろいろな問題に取り組みながら、自分と戦争との関係を考え、
行動している実践を纏めた本である。
どんな実践かというと、
1. 従軍慰安婦 2.南京事件 3.強制連行・強制労働 4.靖国神社
5.東京大空襲 6.沖縄戦 7.原爆 8.朝鮮戦争 9.イラク戦争
以上の問題に、何故関わるようになったのか? また、それが何故自分な
のか?
街場の教育論
内田 樹 著 ミシマ社 1600円
以前、この人の『下流志向』という本を読んで、書評を書いたことがあった。
現代では、子どもがまず消費者として社会に立ち現れる。そして、お金を介し
て子どもは全能感をもってしまう、という指摘が新鮮だった。

反省

鈴木宗男 佐藤優著 アスコム 1600円
多分、去年か一昨年に買っていたが、読まずに積んでおいた本である。
しかし、小沢氏に対する国策捜査が行われている現状では、「国策捜査」とい
う言葉の生みの親でもある佐藤氏と、同じ頃に逮捕された鈴木氏の対談は読ん
でみたい本になった。
国策捜査
宮台 真司 著 世界文化社 1365円
民主党小沢代表の秘書が、西松建設からの政治資金規正法違反で逮捕され、
マスコミでは、連日怒涛の如き報道がなされている。
それはまるで、小沢氏が何か巨大な罪を犯したかのようである。確かに、巨額のお金を企業から受け取っていたのは、いいことではない。しかし、今の制度では、罪には当たらないのである。何か斡旋利得などの事実があったのか?
秘書を逮捕するほどの事件なのか?
南京大虐殺と日本の現在
本多勝一著 金曜日 3000円
「日本人にとって、広島、長崎、東京大空襲等々の被害の記録を残すことはもちろん大事ですが、それと同時に加害の記録を残すことはもっと大事ではないかと、考えていました。」これが本多氏の問題意識である。
軍隊が虐殺したり、強姦したり、略奪したりするのは、珍しいことではない。
史上一番酷いのは、アメリカがやってきた侵略や虐殺である。最初は、アメリカ原住民を殺しながら、彼らの土地を奪った。それから南米に、ハワイに、フィリピンに、その延長上にベトナム戦争や朝鮮戦争、イラクへの侵略がある。
アメリカやドイツと、日本の侵略の違う点は、日本人は自分たちの侵略を反省するということがないところである。それどころか、南京大虐殺なんてなかったんだという、右派の言論がいまだに大きな力を持っている。その証拠に、日本人は戦争犯罪人を首相にまでしたし、その子孫らをいまだに政治の要職につかせて恥じるところがない。それは、日本人の民度の低さとジャーナリズムが機能していないからだ、と、本多氏は言う。
猫を抱いて象と泳ぐ
小川洋子 著 文芸春秋 1695円
小川洋子さんの小説を久しぶりに読んだ。前回読んだのは、2004年。
ベストセラー『博士の愛した数式』と『ブラフマンの埋葬』である。
『博士の愛した数式』は、文字通り数字が物語りの重要な鍵を
握っていたが、今回の小説は、「チェス」である。
ハダカデバネズミ
吉田重人・岡ノ谷一夫 著 岩波科学ライブラリー 1500円
この本は、「岩波科学ライブラリーの151」とあるから、このシリーズではとても多くの本が出版されているのであろう。
因みに、42は、「愛は脳を活性化する」、95は「驚異の耳をもつイルカ」、109は、「日本の動物はいつどこからきたのか」である。生き物大好きな方には、取って置きのシリーズかもしれない。
虫が好きな少年として思い浮かぶのは、北杜夫、手塚治虫、養老孟司、それに最近では、「できそこないの男たち」の著者・福岡伸一さんである。
寡黙なる巨人
多田富雄 著 集英社 1500円 
世界的な免疫学者である多田富雄さんが、脳梗塞を発症し、そこから生還し
てこられた状況を、具に報告した記録である。
しかし、医学者(免疫学者)である彼の視点は、素人のそれとは違って、色々な苦痛、例えば嚥下困難や痰が絡む苦しさや歩行訓練の辛さなどを、医者の目から、また能作者としての目から、的確に描かれている。
私も今まで多くのCVA(脳梗塞や脳出血、くも膜下出血)の患者さんを診てきたが、その苦しみを頭では理解していたような気がしていたが、この本を読んで、私の抱いていた患者さんへの共感など、理解するというレベルには、全く達していなかったことを思い知らされた。
患者さんたちが、こんなにも深い絶望の中から、そのリハビリを通じて立ち上がってこられているのだとは、想像もつかなかった。そのことを思い知らされたことであった。
橋下「大阪改革」の正体
一ノ宮美成 著 講談社 1600円
橋本知事の支持率は、65%とも75%とも言われるほど、高率である。
麻生首相とは大違い。しかし、かっての小泉・竹中改革の時代、小泉内閣も驚異の支持率を誇っていたことは記憶に新しい。
しかし、その小泉改革で何が起こったのか? 貯蓄より投資と言って市場原理主義を、経済の中枢に持ち込んだ結果、労働者は人間として扱われずに、企業に都合の良い調性弁として部品のように扱われ、解雇され続けている。大量の失業者がこれからさらに続出してくることであろう。人件費を減らす企業はいいかもしれないが(これとて、長い目で見れば、購買者を切り捨てているわけだから、景気の回復もおぼつかなくて、自分の首を絞めることにもつながるのだけれど・・・)、この寒空に放り出される労働者の身になってみれば、凍死と紙一重の危険な状態である。これが、ついこの間まで、世界第二の経済大国といっていた国の実態なのか?!
14歳からの社会学

人間は何故死ぬのか?
人間は何故いつも悩みがあるのか?
しかし、考えてみれば、そこには社会はどうなっているか? という社会学的な疑問は入っていなかった。これは私の個人的な問題なのか、または子どもたち一般が持っている傾向なのだろうか?
なかなか現代的な内容を持った素晴らしい本と言える。
第1章は、<自分>と<他人> というタイトルであり、
「みんな仲よし」じゃ生きられない となっている。
環境問題はなぜウソがまかり通るのか
武田邦彦著
洋泉社 952円
「環境問題」に関する私のイメージはどんなものだろうか?
1. 北極の氷が解けて、白熊が生きていけなくなる
2. エスキモーも、狩猟生活ができなくなり、工場などで働き始める
3. 台風(ハリケーン)が、異常に発生し、人類に大災害を与える
4. 海水面が上昇して、ツバルなどの珊瑚礁の国が沈む
5. 国や企業は、CO2の発生削減に努めなければ、気温は上昇し、人類は
この地球に住めなくなる
できそこないの男たち

今年の9月28日、大阪府保険医協会の総会で講演されたときに、福岡先生が新刊を出したと宣伝されたのが、この本であった。
豊富な科学的知識に裏づけされながら、科学的な発見をミステリー調のスリルに富んだ物語に仕上げる文学的才能を併せ持った稀有な人である。
さてこの物語。文字通り、男が偉いのではなく、生物の基本仕様は女性であって、男はそこから紡ぎだされる出来損ないに過ぎない----と言う。
例えば、アリマキという生物は、メスがメスを生み出しうまれたばかりのメスの体内にはもう既に娘が入っている。オスは必要ないのである。
そこを福岡先生の描写力で書けば、以下の如くになる。



























